上の写真は、今朝、家の横で撮ったクサノオウという雑草の花だ。今、あちこちでこの雑草の花が咲いており、よく注意してみると松本市街地でも路傍で目にすることができる。普通はこんな雑草の花をいちいち気にとめる人は少ないだろうから、ほとんどの人は咲いていることすら意識に飛び込んできていないだろう。
でも、このクサノオウは何気に凄い草だったりする。
クサノオウはケシ科クサノオウ属の典型的な毒草だ。毒という事は、逆に薬にもなるということで、古くから薬草として利用されてきた。
古くから主に民間療法において薬草として使用されてきた歴史がある。漢方ではつぼみの頃に刈り取った地上部を乾燥させたものを白屈菜と称し、特にいぼ取りや、水虫、いんきんたむしといった皮膚疾患、外傷の手当てに対して使用された。また煎じて服用すると消炎性鎮痛剤として作用し胃病など内臓疾患に対して効果がある、ともされている。しかし胃などの痛み止めとして用いる際には嘔吐や神経麻痺といった副作用も現れる。湿疹、疥癬、たむし、いぼといった皮膚疾患の外用薬としても有効であるが、有毒植物であるため内服するにせよ外用するにせよ、素人が処方なしで用いるのは危険である。
西洋ではケリドニンの中枢神経抑制作用を利用してアヘンの代替品として用いられたり、がんの痛み止めにも使用された。日本では晩年に胃がんを患った尾崎紅葉がこの目的で使用したことで特に有名であるが、本種自体が強い毒性をあわせもつので現在は用いられない。
クサノオウの茎や葉からは有毒な橙黄色の汁液が出てくる。この汁液には、ケリドリン、プロトピン、ケレリトリンなどのアルカロイドが含まれている。このアルカロイドはケシに比べれば弱いが、鎮静作用や知覚末梢神経を麻痺させる作用があるから、それを利用して上のウィキペディアの記載にあるように、西洋ではアヘンの代替品として使われたのだろう。ちなみに尾崎紅葉は、晩年に胃がんを患った際に痛み止めとしてクサノオウを使用している。
クサノオウの橙黄色の汁液
この汁液が健康な皮膚につくと炎症を引き起こしたり、間違って口に入ったりすると、嘔吐、下痢、昏睡、呼吸麻痺、手足のしびれといった症状がでるようだから、要注意だ。
ネット上を探すと、このクサノオウの麻薬成分を試すべく吸引にチャレンジした人の記事があった。基本的にクサノオウは毒草だから、かなりのチャレンジャーだ。以下は書かれていた吸引後の感覚の一部だ。
世界が完全になった。
この感覚はうまく言葉に表せないのだが、とにかく不完全だった世界が今まさに完全になりつつあり、光は手裏剣型に滲み、脳みそはフル回転し、背筋に心地よい怖気のようなものが走り、世界は完全になり、近視なのにメガネなしで遠くの山の端まですっきり見えた。
やがて首の裏から発した地震は背中全体を駆け巡り、射精感にも似たびくつきは6回を数え、数えるごとにそれはいや増し、世界は完全になり、あごはがくつき、目は見開かれた。車上生活で本を書く 青井硝子のケイトライフ
「煙遊び」と「煙薬(けむりぐすり)」について
吸引後の感覚を、幻覚などはなく、酩酊感や覚醒といった感覚とも違うと記事には書かれているが、「世界が完全になった」なんて感覚は、まさにクスリがキマッた時の感覚ではないかと僕は想像する。
とにかく、道行く人のほとんどが全く意識にとめず、そこに咲いている事にさえ気づいていないこの雑草は、なかなか凄い草ということだ。前回の記事に書いたDr.Stoneの千空であれば、こういった身の周りの草からも有用な化学物質を精製することが出来るだろう。
身の周りの植物から広がる世界
実はこういった麻薬成分を含む植物はクサノオウ以外にも存在している。例えば、野生のものから観賞用のものまでチョウセンアサガオはアルカロイド系の毒素を持つ植物で、ドラッグとして使用すると強烈な幻覚作用を引き起こす。江戸時代に世界初の全身麻酔による外科手術を行った華岡青洲がチョウセンアサガオから精製したものを「通仙散」という麻酔薬として使ったのは有名な話だ。また、チョウセンアサガオの別名にダツラという呼び名があるため、かつてオウム真理教が「ダツラの技法」と称して、信者の洗脳や自白にチョウセンアサガオを利用していたらしい。
チョウセンアサガオの花
毒系では、たまに観賞用に植えてあるのを目にするトウゴマは、もともと種からヒマシ油という油を搾るための作物だが、トウゴマからはリシンというタンパク質を精製することができる。このリシンは猛毒で、かつてKGBが暗殺に使用した毒物として有名だ。庭先や畑の隅に観賞用に植えてあるトウゴマを目にするたびに、僕はリシンが使われた事件を思い出すが、トウゴマを知らない人は、そこに植えられていることも意識のうちに入ってこないのだと思う。
今日、写真に撮ったのがアヘンの代替品にまでなったクサノオウだったので、麻薬成分や毒物系でチョウセンアサガオやトウゴマを紹介してしまったが、道を歩いていて目に入ってくる雑草は、知っていれば、かなり面白い。現在は迷惑な雑草として扱われているが、もともとはサラダ菜として日本に入ってきたものや、ハーブとして入って来たもの、つまり食べられる系や、薬草系、有用な化学成分を含んだものなど、知っていれば、道を歩きながら雑草を見てるだけでもかなり楽しめる。
そして、クサノオウから尾崎紅葉、チョウセンアサガオから華岡青洲の世界初の全身麻酔による外科手術が出てきたように、それぞれの雑草も一歩踏み込んで調べてみれば、面白いことがたくさん出てくる。雑草から化学や歴史、デザインなど、広い範囲に知識を広げる事ができる。現在では、カメラを向けるだけで、その植物の名前を教えてくれる便利なアプリもあるから、知らない植物の名前を調べるのも簡単だ。是非、よく目にする雑草を一歩踏み込んで調べてみて欲しい。
きっと、普段歩く道で、今までと違った楽しみができ、違った世界が広がるはずだ。
これは植物に限ったことではなく、今まで何気なく見てスルーしていた石碑なんかもそうだ。
ちょっと意識するだけで、多くの学びが生まれ、自分の見える世界が変わっていく。
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